〖お困り〗3歳女児。嫌いな食べ物が多くて、お弁当に何を入れようか困っています。野菜は大嫌い。小さく刻んでわからないようにしても感づいてしまいます。一番好きなのは海苔とおしょうゆのご飯かふりかけご飯。あとはいも類、ウインナ、ゆで卵。このごろミニトマトを食べてくれるようになりましたが、神経質なのか私の工夫が足りないのか、食べずギライなんです。
〖お答え〗野菜好きなお子さんはめったにいませんし、何でも食べるお子さんもめったにいませんから、気になさることはありません。彩りを美しくとお思いなのか、お子さんの嫌いなブロッコリーを添えたり、お弁当なら食べてくれるかなという期待を込め、苦手なピーマンをこっそり入れたりなさるお母様がありますが、しなくていいのです。お子さんの好きなものだけを入れてあげてください。「海苔むすび、ウインナ、ミニトマト」「ふりかけおむすび、ゆで卵、ミニトマト」「焼き芋、ウインナ、ミニトマト」おいしそうですね。立派なお弁当です。
小さな幼児には、すぐにエネルギーになる炭水化物が一番いいのです。そしていつもおんなじがいいのです。お弁当のブログや絵本のお部屋にある写真集も参考になりますよ。たくさん遊んでおなかがすいて、お弁当を広げるとお母様のいつものお弁当。お弁当箱の上を行ったり来たりしたお母様の手が見えるような、素朴なお弁当が一番。いつもの匂い、いつもの味、よそゆきでないいつものお母様を味わって、お子さんはどんなに満足するでしょう。
お弁当は身体だけでなく心の栄養なのです。お弁当を食べ終え、さっきより元気になった子ども達の一生けんめいな遊びがまた始まります。お母様はお弁当に変身して、子ども達の園生活を支えているのだなあ、ありがたいなあといつも思っています。時々、仕出し弁当の業者さんがうちはどこより安いですよと、パンフレットを持って園をおとずれることがあります。「ここはお母様のお弁当なのです」とお断りすると、「いいねえ、それが一番いいんだよね」と、皆さんが嬉しそうにおっしゃるのです。商売ぬきのお顔になって。お弁当屋さんのおじさん達にも子どもの頃があって、お母様の味で育ったのですものね。
お子さんの好き嫌いを、焦って今すぐなんとかしようと思わなくてもいいのです。ご家族で囲む食卓があって、お母様やお父様が「おいしいねえ」と楽しくお食事なさっていれば大丈夫。幼稚園でもお友達がそれぞれのお母様の素朴なお弁当を「おいしい、おいしい」と食べていますから、大好きなお友達が何を食べるのか興味津々です。成長とともにいつのまにか知らずしらずに食べず嫌いもなくなりますよ。
「自分の作ったお弁当を子どもが喜んで食べてくれるのって、何だか一人前の母親になった気がして自信になった」と卒園なさったお母様がおっしゃっていました。「今ならもっとおいしいのが手早く作れるのに」とベテラン母の自信をのぞかせ、「あの頃、いつもおんなじお弁当をあんなに喜んで食べてくれる子どもが本当にかわいかった。私の味で育ったあの時代があったから、今の親子関係があると実感している」「卒園後小学生になっても、帰宅後のおやつや休日のお昼ごはんをあのお弁当箱に詰めてあげると、とても喜んだ」そして皆さん口をそろえて「幼稚園時代はあっという間だった」とおっしゃいます。食べず嫌いだったお子さんもたくさんいますが、皆さん大きく成長していらっしゃいますから、どうぞご安心ください。
はじめてのお子さんだとどうしても、近い将来の心配がないようにあれこれ考えたくなります。急かしたり、子どもにそれと気づかれないよう、促したりおだてたり、言葉の上手なお母様ほど気づかないうちに”いわゆる教育ママ”になりがち。今のお子さんはそういう事に敏感で、アンテナを張りめぐらしていますから、お母様がいろいろ策略をめぐらせると、却って大人の顔色を伺うようになってしまいます。「ママは私のこと、気に入らないのかな」というように。気難しいお子さんになってしまったら大変。お子さんの今を無条件に受け入れてあげた方が、結局早道です。お子さんの心が前向きになりますもの。
育てる者として私たちができること、しなければならないことは、自分自身を味わわせることなのです。簡単のようだけれど、今の世の中ではこれが一番難しい教育かもしれませんね。