〖お困り〗年少男児母。近所のお兄さん達を追いかけ、よく転ぶのですが、助け起こしていると「過保護。自立できなくなるよ」と先輩母たちに言われてしまいます。手を出さない方がいいのでしょうか。
〖お答え〗“いわゆる教育的”なお母様が増えました。幼稚園見学にいらした際、お子さんに手を貸したりすると「この子は自分でできます」と言われてしまうことが私どもにもあるので、お気持ちはよくわかります。私ども保育者より、お母様の方がよほど“先生”のようなのです。それで、そういうお子さんが入園なさると、決まって機嫌が安定せず「やって!やって!」と甘えてきます。心は不満でいっぱいなのです。そのため、保育者は無条件でお子さんを受け入れる”母親”の役割を引き受けなければなりません。
手をかけ心をかけ、夢中で保育をしていると、満足して、持っている自分の力を使い始めるのですが、日々その繰り返しです。お母様が変わるとあっという間に安定するのですが。お母様もそのうち我が子の変化に気づき、教育ママだったご自身を反省なさる時が来ます。初めての子育てで育児情報に惑わされたり、ついつい肩に力が入ってしまうのですね。
3歳児は機嫌良く生活するということが大切。それが人生の基本ですもの。お母様に手をかけてもらっているお子さんは、安心していて心が柔らかいですから、自ら感じ考えて意欲的に遊びます。お友達と熱中して遊び互いに育ち合うために、一人ひとりに応じたいろいろな心くばりをするのが幼稚園という所です。その心くばりの中身を“教育”というのですが、学校のように「これこれをやりなさい」というのではありません。子どもさながらの遊びの生活を壊さず、その中に教育を入れていくため、子どもたちはただただ一生けんめい遊んでおもしろいと思っています。安心・安定しているお子さんが集まると、ものすごく建設的な集団になります。そうでないお子さんばかりの集まりはきっと逆、破壊的になるのではないでしょうか。
〖お困り母〗思い当たることがあります。公園でブランコを押してあげていると、息子に向かってお兄さん達が全員で「赤ちゃん!赤ちゃん!」とはやし立てるのです。お母さん達は立ち話をしていて気づきませんが、きっと羨ましいんですね。
〖お答え先生〗そうだろうと思います。子育てで迷った時、自分が今幼児だったらあなたのお母様にどうしてほしいか、どう接してもらったら自分は安心して伸びていけるかと考えたらいいですよ。転んで痛い思いをしている時(怪我はしなくても心は痛いですものね)、黙って何もしないお母様、あるいは「自分で立ちなさい」と声だけかけるのがあなたのお母様だとしたら。
あなたはわざと起き上がらず、泣いてみたりもするけれど、ママの心がますます硬く意地の張り合いのようになってしまう。ああママの前ではちゃんとやらなきゃと思ったりするでしょう。ママは私のことかわいくないんだと思うかもしれませんね。あなたのお母様はあなたが我慢している、あるいは母親を諦めていることに気づかず、自分の教育に自信を深めるかもしれません。あなたの中身に気づかず。子も母もなんて気の毒なことでしょう。
いつも助け起こしてくれる母の手を感じるから、お母様が側にいない時、自分で起き上がるのです。お母様がいる時、起こしてもらう嬉しさが、そうさせるのですよ。依存を味わっていない自立はもろく弱いです。お子さんが自ら起き上がろうとしているのを止めて、起こしてあげてと言っているのではないことはわかりますよね。状況によるのです。けれど幼児の教育の基本は親切。親切にお世話して、うんとかわいがってあげてくださいね。